読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

漆黒に染まった銀弾:19

「ご馳走になったので、片付けは僕らでします」
ジャックはそう言い、調理で使った鍋やお玉を洗い始めた。蘭は自分がするからと遠慮したが、何もしないで煙草を吸っている剱崎が口を挟んだ。
「いいんです、いいんです、人一倍食ったのはそいつなんだから」
「あなたねぇ」蘭は剱崎に顔を寄せ、思いきり顔を歪めた。「子供にだけそんなことさせられるわけないじゃないですか。道具戻すところまで結構距離もあるし、重たいし」
「あ、いや、だから…ど、道具戻すのは俺が一緒についていくし、こう見えて結構鍛えてるから大丈夫!!て意味で…」
気圧され、しどろもどろに答える。
「それに、ほら、さっき運営委員の人が、女の子達からお風呂入ってくださいって言ってましたよ。だからあなた達は早めにお風呂行った方がいいんじゃないかなぁ…時間過ぎると今度は男の子の番になるだろうし」
「え!?」
蘭が思わずコナンへ目を向ける。コナンは椅子を折り畳みながら、頷いた。
「うん、さっき言ってたよ。えーと、八時から男の子が入るって言ってたかなぁ」
「えーっ、八時!?」園子は時計を見て叫んだ。「もう七時回ってるわよ!?蘭、早く行こうよ!!入れなくなっちゃうー!!」
「で、でもぉ…」
一人で洗い物をするジャックに後ろ髪を引かれるのだろう、蘭は困った顔でその場から動けないようだった。
「心配せんでも大丈夫じゃよ蘭くん。わしもおるし、この子達もおるから」
阿笠博士がそう言うと、ようやく少し気が落ち着いたのか、蘭たち女性群は施設に戻っていった。
コナンと光彦は簡易テーブルや椅子を折り畳み、元太はそれを乗せる為の台車を持ってきた。ジャックは洗い物を終えるとタオルで拭き始め、これまたそれを入れる為のステンレスのかごに納めていく。阿笠は道具を返す為に動いてくれたが、剱崎は煙草を吸うばかりで、ついに何もしなかった。
「お前も何か手伝えよ」
元太が睨み付けると、彼は携帯灰皿に吸い殻を仕舞いながら、肩をすくめた。
「どうもこういうのは苦手でね…お陰で家も散らかしっぱなし、ゴミ屋敷だ」
「自慢になりませんね…」光彦が呆れて大きな溜め息を吐く。
「確かにね…俺は子供に好かれるような立派な人間なんかじゃない。だけど、君たちにできないことができるんだよ…そう例えば、施設の中にあった自販機で好きなジュースを奢ってあげる、とかね!!」
それまで軽蔑した目を向けていた元太と光彦が、一瞬にして顔を明らめ、尊敬に似た眼差しに変わった。コナンは、買収かよ、と苦笑いするが、蒸し暑い夜に作業をしていて喉が渇いてたのも確かなので、その言葉には素直に甘えた。
自販機は施設の入り口すぐに設置されており、向かって左側に女子部屋への階段、右側に男子部屋への階段がある。間をまっすぐ通った先はトイレ。左側から順番に、女子トイレ、障害者用トイレ、男子トイレ。階段とトイレの間のスペースに、椅子やテーブルが簡単に並べられているので、コナン達はそこでジュースを飲んだ。
剱崎は割りと子供の扱いが得意なようで、元太や光彦はすっかりなつき、今までの少年探偵団の活躍を嬉々として話している。コナンと阿笠博士は別のテーブルに座り、そこにジャックが来た。
「ここ、いいだろうか」
「どうぞ」コナンはラムネを飲みながら、光彦達の席を指した。「あっちの方が楽しそうだぜ?」
「君が活躍した事件については、もう知っているからね」
ジャックは口元だけで微笑み、剱崎が買ったミルクセーキを開けた。
「もちろん、毛利小五郎についても調べさせてもらったよ」
「お前は…どっちなんだ?」
コナンが声を低める。彼は自嘲気味に笑い、さぁね、と首を振る。
「何でおっちゃんのことまで調べる必要があった?まさか依頼する為じゃないだろ?」
「そのまさかだよ」ジャックは多少青白い顔で、口元をひきつらせた。「人を探しているんだ」
「おいおい…本当に依頼するつもりだったのかよ!?」
「いないんだよ、どこ探しても。ああやって頭下げたくない奴にまで頭下げて探してるってのに、ぜんぜん…」
言いながら指したのは剱崎である。二人の視線に気づいた男は微笑み、冗談っぽく手を振って見せた。ジャックは無視してコナンに向き直った。
「俺みたいな銀髪の少年なんだけれど…おそらく六歳から八歳くらいの…」
「はぁ!?お前ら、まさかっ…!?」
「俺やブラックが戻ったらいなかったんだ。監視役のウォッカが睡眠薬で眠らされて、その隙に逃げたらしい」
ウォッカの顔を思い出す。そういえばあいつらよく一緒にいるな…。
「ブラックがGPS付けていたんだが、それが杯戸町辺りで途切れていて。だから俺はこっちを探しているんだ。ブラックはその間、ジンを探してる別の奴らを片っ端から始末していってる」
「自称フリーメイソン、か?」
コナンが苦笑気味に言うと、ジャックは若干戸惑った顔で首を傾げる。
「おめぇの仲間がそう言ったんだよ…いくら本名や組織名言えないからって、フリーメイソンのジョナサンですってのはなしだろ?」
コナンは光彦達と談笑してる剱崎を見た。
「まぁ本人はセンスあるジョークだと思ったのかもしれねぇけど」
ジャックは笑った。「本当、何もかもお見通しだな、君は」