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漆黒に染まった銀弾:29

指定された待ち合わせ場所にウォッカが戻ると、公衆トイレの入り口から人の足が覗いてるのを見つけて、慌てて駆け寄る。血だらけのジョナサンが横たわっていたので、脈を確認しようと手を伸ばしたが、すぐに掴まれて生きていることは確認できた。
「悪い、悪い…ちょっと横になって休んでただけですよ」
ジョナサンはだるそうに起き上がり、ウォッカの手を借りながら車に乗り込む。ポケットから煙草を取り出すが、赤く濡れていて使い物にならなさそうだった。
「ブラックは…?」
ウォッカが恐る恐る尋ねると、ジョナサンはにっこり笑った。
「逃げられました。お腹空かせた獣みたいな奴だと思ったが、まさか逃げ足も速いとはね」
「何発撃ち込まれた?」
「まともに当たったのは一発…腰の辺りです。それより十発近くヒットした素手の方が、ダメージがでかいみたいで」
歩き方がおかしいとは思ったのだ…各所折れているのだろう。だがジョナサンは相変わらずにこにこ笑顔のままで、一見そんな大怪我を負っているとは思えない。
ジョナサンがウォッカに接触してきたのは、ジンがキャメルに病院へ運ばれた時だった。ウォッカは買い与えたミニカーに発信器を取り付け、手離さないよう強く言い聞かせて、ジンを逃がした。だが直後に病院へ運ばれたものだから不安が押し寄せ、簡単な変装をして様子を見に行こうとしたのだ。
「残念ながら会わせるわけにはいかないんですよ」
看護師たちにコナン達が追い払われた後で、病室を間違えたふりをして入るつもりだったのだが、医者に止められた。その医者こそが、変装をしたジョナサンだった。
病院の屋上に連れ出され、煙草を吸いながら彼は話した。
「一気にたくさんの情報を今から言いますよ」
サム・タカナシ・ジョリーが死にかけていること、その遺産相続の権利がジンにあること、自分はサム・タカナシに代々仕えている家系の者であること、サクラが生きていた時からジンの世話をしていたこと、ゴブリンに潜入しジャックと知り合い薬の検体にもなったこと、ジンにサクラの遺品を手渡さなければならないこと、ジンに遺産を相続するか否かの意思を聞かなければならないこと…。
情報量は覚悟していたより少なかったが、内容が想定の範囲を悠々と越えていて、ウォッカはなかなか素直に飲み込むことができなかった。
「怖がらなくていいですよ…俺はジンの敵じゃありません。むしろ今は、ジンの為になら何だってしますよ。サクラの遺志ですから…」
サクラの名前を出す時のやわらかな声で、この男が黒澤サクラに惚れていたことはわかる。
ウォッカはジンのことを思い出していた。そういえば組織からの命令でない時は、ジンは感心するほど財力に無関心だった。財をなげうってでも命乞いする輩も多いが、ジンは冷めた目でそれを見つめるだけで、心揺らぐどころか唇ひとつ動かさない。あれは上流階級の血筋というものが、本能的にそうさせるのだろうか…
「何で俺に話しに来たんだ?」
ジョナサンは愚問だとばかりに鼻を鳴らした。
「別にこの為に来たわけじゃありませんよ…ジンがゴブリンの奴らに襲われたみたいだから、様子を見に来たんです。そしたら同じように、ブラックに見つかるリスクを負って下手な変装で会いに来た男を見かけたから、声かけたんです」