読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

漆黒に染まった銀弾:7

クラウディオは週末しか日本に来れないのだと言うので、浅草見物も週を跨いだ。ただ今回はせっかくの誘いだからと金曜日には日本に到着し、土曜日に会おうという話でまとまった。
コナン、灰原、阿笠博士、ジョディ、沖矢の五人は、金曜日の夜に阿笠邸に集まっていた。クラウディオが持ってきたムービーがBGM代わりに流れている。
「明日、彼は来るかしら」灰原はずっと強張った顔をしている。「江戸川くん、本当に気をつけて」
浅草見物はコナンと阿笠博士で案内することになっていた。黒の組織の人間をおびき寄せる場所に、灰原は行きたがらなかったし、行かせるわけにもいかない。ジョディは遠巻きについていくと言い張っていたが、コナンは首を振った。
「クラウディオさんに、ジョディ先生はFBIの人だってばれているし、一度保護を断られた以上、尾行するのはやめた方がいいと思う。FBIに不信感なんて持たれて、避けられるようになったら、クラウディオさんの危険が増すだけだからね」
「それはそうだけど」彼女は納得し難い様子である。「あなたたちだけでも十分危ないわ。せめてキャメルやジェイムズを付き添わせられないかしら」
「俺がいこう」
それまで黙っていた沖矢が言った。
「この顔なら奴らにもまだばれていないようだし、俺なら万が一見つかっても、独自でDr.カーターを調べていたということにできる」
「そんなこと言ってかっこつけたって、バーボンが追手で来たらどうするのよ。逆にコナン君たちを危ない目に合わせることにならない?」
バーボンが来る可能性は低いと誰もが思っていたが、ゼロではなかった。万が一のことも想定しておかなければならない。沖矢は少し悔しそうに口をつぐみ、腕を組んだ。
「とにかく明日は、俺と博士で行くよ。発信器持っていくから、灰原とジョディ先生たちはそれ見ながら待機していて」
阿笠博士が自慢気にお手製の発信器を出した。今まで使っていたものがあるからそれを使うと言ったのに、今回の為にわざわざ新しく作ったらしい。オリンピックのエンブレムのようなバッジ型で、デザインは多少ださかった。
「テーマは日本観光大使。わしとコナン君で同じものをつけていたら、クラウディオさんにもつけてもらいやすいじゃろうと思うてな!!」
「つけるかしら、彼」灰原は呆れて溜め息も出ないようだった。「ずいぶんお洒落にしている人だったから、そんな子供っぽいもの、つけたがらないかもしれないわよ」
予想外の反応だったのか、阿笠博士は少々戸惑い、色が悪いんじゃろうか、と急に弱気になった。コナンは失笑しながら少し離れて、スクラップノートをめくる。
「明日、おそらくブラックは来ない」
背後で沖矢がつぶやいたので、そこに彼がいたことに気がついた。コナンはジョディたちが三人でバッジのデザインについて言い合っているのを確認してから、声を潜めた。
「ブラックは来ない?でも、クラウディオさんには」
「組織の人間が誰か接触したのは確かだろう。それがブラックの可能性が高いのも確かだ。だが、そうだとしてもブラックは来ない。特に日本に帰ってきたばかりの今、奴がジンから離れるとは考えにくい」
「そ、そんなになのかよ」コナンの顔がひきつった。「いくら親代わりだからって、度が過ぎてねぇか?」
「来るとしたらジャックだ」
沖矢は淡々と続けた。
「俺も実際に会ったことはない。組織内でもほとんど姿を見せないからな。ジャックがそこにいた、と聞いても、奴がそこにいた気配など微塵も感じさせないくらい、奴は音も匂いも痕跡もなく忍び寄り、立ち去ることができるらしい」
まるで忍者だな、と思った。痕跡を残さないとは厄介だ。誰だかわからないが誰かはいた、と認識するのと、誰もいないと思わされるのとでは、大きな違いがある。人物を特定するかしないかよりも、もっと大きな違いが。
「ジャックという男が組織にいること。ブラックにとってDr.カーターは目障りなこと。そしてブラックにとって組織はそれほど重要でないこと。この三つは頭に入れておいた方がいい」
「忠告どうも」コナンはにやりと笑い、後頭部に両手を回した。「とりあえず明日は無茶するつもりはねぇよ。ブラックが来るかどうかよりも、もっと気になることがあるからな」
沖矢は眉も動かさず聞き返す。「もっと気になること」
「そう…俺らの前に現れた、あのクラウディオ・カーターさんが一体何者なのかってことさ。ジンを探しているのは間違いないようだし、Dr.カーターがジンの父親なのはわかったが、あのクラウディオさんは誰なんだろうな」
コナンはスクラップノートを指差す。事件の切りぬきが並べられたページだが、左側の方から古い日付順に並べられていた。
「右から左へページを繰るノートにスクラップするなら、普通右側から順に日付を並べるよな。それが左側から順番に並べられている。これはきっと」
「本物のクラウディオ・カーターは左利き」
沖矢はそこで初めて眉をひそめて、何かに気がついたように、ムービーの方へ目を向けた。
「そう、あのダビングされたムービーだってそうだ。日付順にテープは並べられていたが、その日付は飛び飛びになっていた。一歳と四歳の誕生日があって、二歳の誕生日はない。三歳の誕生日は途中まで…これはきっと編集したものと、見せてはいけないと判断されたもの以外のテープだけ持ってきたんだ。ここにないムービーではきっとクラウディオさんが左手でケーキを切ったり食べたりしているんだろう。だが、ネクタイの結び目までは気が回らなかったのか、俺たちの前に現れたクラウディオさんと、ムービーの中のクラウディオさんでは、結び目が左右反対になっていたよ」
クラウディオはスクラップノートを取り出す時も、ダビングしたテープを取り出す時も、右手だった。人間というのは作業しながらでも見やすいという理由で、無意識に利き手に腕時計を巻きたがるのだが、息子とお揃いだと言って見せてくれた時計は右手にはめられていた。メーカー名もブランドの特徴もない、ガラスだけやけにきれいだった、あの妙な時計である。
どこのどいつだか知らないが、その正体を暴いたら、奴らについて知ってることは全部話してもらうぜ。ジンを探しているのはお前だけじゃねぇんだからな。