漆黒に染まった銀弾:29

指定された待ち合わせ場所にウォッカが戻ると、公衆トイレの入り口から人の足が覗いてるのを見つけて、慌てて駆け寄る。血だらけのジョナサンが横たわっていたので、脈を確認しようと手を伸ばしたが、すぐに掴まれて生きていることは確認できた。 「悪い、悪…

漆黒に染まった銀弾:28

「羽根くれたおじさん」 ジンが嬉しそうにキャメルに紹介した男は、米田と呼ばれた係員の格好をしていたが、マスクを破りとるとコナンも見たことのある顔だった。 「お前、何でここにいるんだよ、ジョナサン!?」 ジャックも把握していなかったらしく、困惑と動揺…

漆黒に染まった銀弾:27

七月三十日。ジェイムズとジョディは灰原哀の護衛の為に工藤邸の留守を任され、キャメル、ジャック、コナン、沖矢、ジンは、レンタカーで帝都動物園に向かった。ハヤブサショーは午後二時から。日曜日の午後は混むだろうということで、午前十一時に家を出た…

漆黒に染まった銀弾:26

ロンドンの駅で爆破事件。テロリストによる犯行か。 北海道で大規模な交通事故。暴走したトラックの運転手、未だ見つからず。 日系アメリカ人の資産家、サム・タカナシ・ジョリー氏死去。 外交官横領疑惑。明日にも釈明会見をするとの発表。 海水浴場にサメ四…

漆黒に染まった銀弾:25

夜が深くなり、生ぬるい静寂が町をゆっくり覆う頃、寝息を立てているふりをしながら耳を澄ませていたキャメルは目を開けて、なるべく音を立てないようにベッドを降りる。すぐに追うと気づかれてしまうので、リズムをむゆ乱さず寝息を立てながら、ドアに耳を…

漆黒に染まった銀弾:24

ジョディとキャメルが二人を保護するという名目で始まった生活の六日目。コナンはその部屋に遊びに来ていた。泊まり込みの許可は出なかった為、できる限りここに足を運ぶという形に切り替えたのである。ジンは記憶を取り戻す様子がまるでなく、規則正しく起…

漆黒に染まった銀弾:23

ジンの意識が戻ったことを聞き、医者はいくつか彼に質問をし、鎮痛剤と化膿止めの薬を点滴で打った。コナン達が彼に構わず勝手に話をしていても、ジンはひとりでミニカーをまじまじと見つめ大人しくしており、その内薬の副作用でぐっすり眠った。 ジャックは…

漆黒に染まった銀弾:22

その夜、キャメルは久しぶりの非番だった。赤井秀一が生きているとわかってから、黒の組織に関する情報があれよあれよと出てきて、休みなく働く毎日がしばらく続いていたのだ。そのせいか、昨晩、昼には気に入っているファミレスにカレーを食べに行こうと決…

漆黒に染まった銀弾:21

子供の姿になったジンは一度目を覚まし、混乱しながらもウォッカに仕事に関する話をいくつかしていた。目の前で苦しみながら子供になったのを見たはずなのに、ウォッカはなかなか事態を飲み込むことができず、ブラックに命じられるまま、子供になったジンを…

漆黒に染まった銀弾:20

違和感がずっと拭えなかったのは、ブラックを最初に見た時だ。 クラウディオの格好をしたジョナサンが目の前に現れて、ブラックとジャックだな、と声をかけた、あの二人。あの時のブラックはやけに焦っていた。そして 「誰だこいつ、おい殺していいのか!?」 確…

漆黒に染まった銀弾:19

「ご馳走になったので、片付けは僕らでします」 ジャックはそう言い、調理で使った鍋やお玉を洗い始めた。蘭は自分がするからと遠慮したが、何もしないで煙草を吸っている剱崎が口を挟んだ。 「いいんです、いいんです、人一倍食ったのはそいつなんだから」 「あ…

漆黒に染まった銀弾:18

「おいしい?ジャック君」 蘭が微笑みかけると、なんとも無愛想な顔のまま、ジャックは頷く。渋々食べているような態度だが、それにしては元太とそう変わらない量をむしゃむしゃ食べている。 「おめぇ、食わせてもらってるんだから、ちょっとは遠慮しろよな」 さ…

漆黒に染まった銀弾:17

銀髪の少年はジャック・ジェイムズと書かれた名札をつけている。それは合宿運営委員会の人から配られたもので、今回の参加者はみんな左胸につけているものだ。 「ジャック君っていうのね」 「荷物重たそうね?お姉さんが持ってあげよっか?」 女子高生とはしつこい…

漆黒に染まった銀弾:16

********* 浅草の事件からあっという間に月日は流れてしまい、コナン達は夏休みに入ってしまった。インターネット上でもクラウディオ・カーターの存在は全て消去され、黒澤サクラの惨たらしい事件に関する内容も全て消されていた。ジンの生死を確認することも…

漆黒に染まった銀弾:15

サクラの顔立ちは東洋系のそれだったが、髪はブロンドに近かった。彼女が俯くと絹のようなその髪がさらりと垂れて、ベールを被ったようにその目が霞がかって見えた。彼女はよく胸を抑えてしゃがみこみ、乱れた呼吸を整えることがあり、ジンはその度に顔を覗…

漆黒に染まった銀弾:14

浅草で身元不明の死体が二体見つかった事件は、詳細までは報道されなかった。クラウディオ・カーターが殺されたことを知った小五郎は、一億円がパァになったとやけ酒を飲んでいたが、実際は全く何の手がかりも見つけられなかったのだから、ほっとしているよう…

漆黒に染まった銀弾:13

「兄貴!!兄貴!!ど、どうなっちまってんだこれ…生きてるのか?」 ウォッカの声が響く。小さな公共トイレの中は血生臭く、妙な熱気がこもっている。 困惑と動揺が高じて声を荒げるウォッカはともかく、恐ろしいのは、先程人を殺したばかりで、目の前で可愛い息子…

漆黒に染まった銀弾:12

「おもしろくもねぇ…」 無理やり白昼の人混みへ引っ張り出されたジンとウォッカは、ひどく落胆させられた。ブラックの言う、おもしろいもの、というのは、変装したジャックのことだったのだ。 「だが珍しいだろ?こいつがこんな真っ昼間から表に出てきているな…

漆黒に染まった銀弾:11

「ジョナサン~?しかもおめー、フリーメイソンって…」 その答えに脱力した。ジョナサンなんてあきらかに偽名であるし、しかも所属組織として名前を出したのが、あの有名な秘密結社。胡散臭い…。 ジョナサンと名乗った彼は、コナンに疑われても大して気にして…

漆黒に染まった銀弾:10

蕎麦屋は混雑しており、三人でベルツリータワーを遠目に見物しながら待った。サラリーマン風の男たちが団体でどっと出ていってすぐにコナン達は店内へ招かれ、運良く座敷の席に座ることができた。コナンには蕎麦の良し悪しなどわからないが、阿笠博士とクラ…

漆黒に染まった銀弾:9

「クラウディオさん、ほれ、見てください。あれが有名な雷門ですぞ。せっかくですから写真でもいかがですかな」 土曜日は快晴だった。週末ということもあり観光客で賑わっており、修学旅行らしい学生の団体もちらほら見えた。 クラウディオは今日はショルダー…

漆黒に染まった銀弾:8

まだ寝付いたばかりで、体と同じくらい瞼が重たかった。だが明るい日差しが容赦なく突き刺さる痛みに耐えられず、渋々目を開けたのである。部屋に入ってカーテンなど一度も開けてないはずなので、どこから日差しが入り込みジンの眠りを妨げるのか気になった…

漆黒に染まった銀弾:7

クラウディオは週末しか日本に来れないのだと言うので、浅草見物も週を跨いだ。ただ今回はせっかくの誘いだからと金曜日には日本に到着し、土曜日に会おうという話でまとまった。 コナン、灰原、阿笠博士、ジョディ、沖矢の五人は、金曜日の夜に阿笠邸に集ま…

漆黒に染まった銀弾:6

間接照明でゆらりと照らされた松の絵の屏風が、妙に不気味だった。職業柄暗いところは慣れているし、シャンデリアでぎらぎら輝くレストランよりずっとましではあるが、バーや路肩で軽食を済ませることが多い生活の者にとっては、少し居心地が悪かった。 ウォ…

漆黒に染まった銀弾:5

クラウディオ・カーターがジョディの携帯電話に折り返してきたのは、依頼に来た日からちょうど一週間経った日曜日。ジョディは工藤邸におり、沖矢はもちろん、コナンと灰原もいた。 「Dr.カーター!?」 彼女が慌てて電話をとったので、沖矢がスピーカーに切り替…

漆黒に染まった銀弾:4

その男はジンよりも背が高く、襟元の伸びた黒いセーターと細身の黒いパンツを履いていた。艶のある黒髪はオールバック、赤い珊瑚のピアスを耳にぶら下げ、赤いマニキュアで爪を彩っている。顔立ちは整っているが造りはシンプルだ。整った眉、切れ長の目、筋…

漆黒に染まった銀弾:3

クラウディオ・カーターが息子探しの依頼をしに来た、と伝えると、ジョディは飛んできた。ずいぶん高揚した、しかし何かに焦っているような声に、コナンは思わずにやりと笑った。 「いい情報をもらえそうだぜ、灰原」 隣で聞いていた灰原も、静かに頷く。顔が強…

漆黒に染まった銀弾:2

翌日、放課後。阿笠邸。 「クラウディオ・カーター!!Dr.カーターのことかね?」 コナンがコピーして持ってきたスクラップノートを見ながら、阿笠博士が意気揚々と言ったので、コナンと灰原は少し驚いた。 「阿笠博士、クラウディオさんのこと知ってるのか!?」 「あ…

漆黒に染まった銀弾:1

どこにでもある、日曜日の午後。毛利小五郎は昼間から酒を飲み、競馬新聞を広げてなにやら上機嫌。蘭は園子たちと映画を見に行くと言い、出ていったばかりだ。 特にやることもないので、部屋を簡単に掃除し、小五郎の空けたビール缶を片付けていたのだが、潰…